シナジー効果分析
資料等は以前の記事に書いています。
今回の事例は、情報通信を行っている小規模な企業に関するものです。
市場動向
詳細なデータは資料編に譲るため、概要のみ示す。新型コロナウイルス感染症(以下、「同感染症」という。)の影響を考慮しない場合であっても、情報通信関連事業の業界自体は利益率が高い。同感染症を考慮すると、DX(デジタル・トランスフォーメーション)をはじめとして、IT化の推進の傾向はさらに強化されている。
各領域のKFS(勝ちパターン)
媒体運営及び保守・管理に関しては、規模の利益が買収企業及び被買収企業が同業種であるため充分に働く。さらに、販管費の中で手数料がネックになっていたが、外部発注等の契約等の見通しにより、利益率が上昇すると考えられる。
業界プレイヤーの業績
詳細なデータは資料編に譲るが、業績が好調である事業者が多い。大規模事業者から小規模事業者に至るまで多数の事業者が存在する。寡占状態ではないが、規模の利益が働くことで手数料や固定費等の削減が可能になる。
総括
現在、高コスト体質であり、削減の目途が立っている。さらに、規模の利益も働くことによりさらにコスト削減効果があると考えられる。
2本編
1-1.シナジーの評価軸
シナジーでは「実現可能性」及び「経済性」の2軸を用いて、優先順位付けをする。
実現可能性が高く、経済的効果も大きいシナジーは優先度が高い。一方で、実現可能性も経済的効果も少ないものは優先順位を落としてもよい。
下記表1を参照してもらいたい。
表1
優先順位付け 高
優先度中 |
優先度高
|
優先度低
|
優先度中 |
↑実現可能性
小 ←優先度→ 大 ↓
低
1-2.実現可能性の評価
実現可能性を評価するには、「合意形成」と「リスク等」を評価する必要がある。
(1)合意形成
買収企業においては、人員・組織面での合意形成は不要である(なぜならば、そもそも社員がいないため)が、様々なステークホルダー(顧客や取引先等)との交渉や合意が必要である。
(2)リスク等
シナジー施策を実施する際に様々なリスクが存在する。また、シナジーの創出においては、モノ・カネが一番シナジー創出の難易度が低く、次いで情報であり、一番難易度が高いのが、ヒトに関連するものである(前述の通り、これは無考慮の必要がない)。
次に、情報に関連するシナジー関しては、形式知か暗黙知かにより活用のしやすさが異なる。形式知であれば、データベース化されている場合活用しやすい。しかし、技術や営業ノウハウ等は、ブラックボックス化されている。
最後に、「モノ」と「カネ」に関するシナジーについては、実態のある資産を活用するため、シナジー創出は定量的で、かつ、実現可能性も予測しやすい。
1-3. 経済性の評価
シナジーには様々な種類がある。具体的には、売上シナジー、コストシナジー、ディスシナジーである。
売上シナジーは、クロスセルなどの実施により、売上成長を見込むものである。
コストシナジーは、重複する業務の効率化により、コスト削減を見込むものである。
ディスシナジーは、M&A取引による追加投資や人材や顧客流出などの企業価値を既存させるシナジーである。
第2章事業構造レビュー
IT業界においては、従来型の産業とは異なり、少人数(フリーランス等を含めると1名のみでも)でサービスを作り上げることが可能になってきた。大規模プロジェクト等の受注ではなく、買収企業・被買収企業が対象とする小規模プロジェクトや小規模サービス(以下、「小規模サービス等」という。)の需要も大きい。
また、価値観の変容により、若者等を中心にSNS等でのつながりからリアルな人間関係への推移も多くなっている[1]。
上記を踏まえると、小規模サービス等と大規模事業者の展開するサービスは必ずしも競合関係にあるとはいえない。さらに、同様のサービスであっても、独自性をだすことや自社サーバー等の保有等の固定費が抑えられ、きめ細やかなサービスを展開することで差別化を図ることが可能である。
マクロ環境を知ることが重要であるといえ、マクロ環境のフレームワークである、PEST分析を行う。なお、PESTとは、政治(Politics)、経済(Economy)、社会(Society)、技術(Technology)の頭文字からなる。
表2
政治 |
・情報社会の推進 ・Withコロナ、Afterコロナ時代においてもオンラインサービスの需要は増加傾向 ・DX(デジタル・トランスフォーメーション)の推進 |
経済 |
・ITの利活用による生産性の向上 ・IT人材の供給不足により、IT人材の奪いあい ・ITが他分野との融合(例えば、金融等)への広がり |
社会 |
・SNSの広がり ・人間関係の考え方の変容 ・人間関係の希薄化 |
技術 |
・AI ・5G ・クラウドの安価な利用 ・仮想通貨(暗号資産) |
このような分析を踏まえると、情報通信分野における保守・管理及び媒体運営事業の需要は増加し続け、コロナ時代にあってはかえって追い風にあるとすらいえる。さらに、Afterコロナにおいても、オンライン上でのサービスで一定程度のことが可能になるため、この需要の増加傾向は継続すると思われる。
第3章プロジェクションと経済性レビュー
第2章では、2-1.でシナジー効果を、2-2.でROAによる経済性の判断を実施する。
3-1.シナジー効果
〇売上におけるシナジー効果
・ノウハウの共有
・クロスセリングの実施
〇コストにおけるシナジー効果
・二重での様々な契約が一本化可能になることでコストが削減される(00.000,000円程度の削減)
・人件費等の効率化
(0,000,000円程度の削減)
・拠点の集約
〇総合的なシナジー効果
・顧客情報網の共有
・新事業分野(情報通信以外)への進出
〇ディスシナジー
・経営者の流出等
3-2.ROAによる経済性判断
ROAに関しては、添付資料編の添付-1を参照してほしい。重複するが、被買収企業は、このROAが次の通りである。根拠となる当期純損益及び総資産の数値については添付資料編を参照してほしい。
●●●●●●/●●●●●●=13.8%
なお、日本の上場企業のROAは10%程度[2]である。しかしながら、これには3つの特殊要因を考慮する必要がある。
(1)補助金がカウントされていること
(2)情報通信以外での臨時の収益(△00,000円程度)がること
(3)確実に実施できる経費削減を考慮する場合(ア)と考慮しない場合(イ)の2点を考慮すること
これらをふまえると、(ア)においてはマイナスになる。しかし、社内調査により、確実に実施できる経費削減の実施までを踏まえると、(1)及び
(2)に関しては相殺可能であることが判明した。
第4章今後の方向性についてー持続的競争優位の確保に向けてー
買収企業及び被買収企業共に、売上に関して増加傾向にある。しかしながら、経費も増加傾向にある。とはいえ、ベンチャー企業にとってはやむを得ない。
そこで、如何に経費の伸びを企業努力により圧縮して、売上を持続的に増加させるかが焦点になる。
上記を踏まえ、買収企業及び被買収企業のSWOT分析を実施する。
表3
強み |
弱み |
・優秀な人材 ・ノウハウ |
・財務基盤 ・高コスト体質 |
機会 |
脅威 |
・決済サービスやクラウドコンピューティングサービス等の価格の低下 |
・大規模事業者 |
表2を踏まえると、今後の方向性は次のようになる。
まず、優秀な人材やノウハウという強みがあり、決済サービスやクラウドコンピューティングサービス(AWS、GCP、Microsoft Azure[3]等)の価格低下により、コストが小規模な事業者であっても可能になることを踏まえると必然的にコストが減少し、その結果として、利益が増加することになる。
また、クラウドコンピューティングサービスを使いこなすには高度なノウハウ、知識等が必要であるが、買収企業にはこの高度なクラウドコンピューティングサービスを使いこなすことができるため、大きな強みである。
また、決済サービスも多様化しており、暗号資産(仮想通貨)決済等の導入等も考慮することで利便性を向上させることができよう。
これらの努力により、高コスト体質は改善する。さらに、財務基盤も当然ながら強固になる。
まとめ
‣外部環境は良好
‣新たなクラウドコンピューティングサービスの導入により、経費削減を
‣特殊要因があるが、相殺可能
‣シナジー効果を最大限いかすためには、売上とコストのシナジー効果を意識
‣シナジー効果を最大限活かすことで、様々な変化に対応可能
[1] 株式会社パートナーエージェント(証券コード6181)の調査結果(https://chosa.itmedia.co.jp/categories/marketing/95568)参照。
[2] (経済産業省経済産業政策局産業資金課 事務局説明資料 https://www.meti.go.jp/shingikai/economy/sustainable_kigyo/pdf/001_05_00.pdf参照。)
[3] AWSとは、Amazonが運営する、Amazon Web Servicesのことである。GCPとは、Google(Alphabet)が運営する、Google Cloud Platformのことである。Microsoft AzureはMicrosoftが運営している。いずれも、クラウドコンピューティングシステムの中で、最先端であるため、高度な知識・能力が必要である。